債権には時効がある!2020年債権法改正の影響と忘れがちな時効の中断

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売掛金トラブルでは、時効に注意

債権と債務について知っておこう

オーダーを受けて商品をつくったり、販売したりするなど、何らかの契約に基づいて、相手に金銭や物品を請求できる権利を「債権」といいます。この際、一方の相手方には、金銭や物品をわたす義務である「債務」が生じます。

債権には民法で規定された消滅時効があり、定められた期間が過ぎてしまうと、債権が消滅します。債権が消滅すると、当然、一方の相手方の債務もなくなってしまいます。つまり、「商品を販売したのに相手がお金を支払ってくれない」というケースでも、相手に支払ってくれるように交渉をしているうちに、時効になってしまうということもあるわけです。

売掛金トラブル中に時効になってしまったら?

消滅時効を迎えると債権はなかったことに…

「相手方に請求書を送ったのに、期日までに支払いがない」。そこで、連絡をとってみたところ「必ず払うのでちょっと待ってほしい」と言われたとします。仕方がないので、時間をおいて再度、連絡をとってみると、「もう少し待ってくれ…」。そんな繰り返しのうちに時効が来てしまうと、売掛金を回収できる見込みはありません

相手方の債務は時効により消滅してしまっているため、「払う義務はない」と開き直られてしまえば、債権を持っていた側はそれまでなのです。売掛金トラブルに見舞われたら、時効についても気にかけておきましょう

債権の消滅時効

2020年4月1日、大きく変わる消滅時効のルール

2020年4月1日に行われる民法(債権法)改正で、消滅時効のルールは大きく変わります。

現行民法における消滅時効期間

従来の民法では、債権の時効は個人間の債権で10年。
貸主・借主どちらかが商法上の証人である場合は「商事債権」とされ5年とされていました。
その他、職業や請求の内容によって1年から5年細かく規定される「短期消滅時効」が定められていました。

現行民法における、消滅時効の主なものを挙げてみましょう。

現行民法における債権の主な消滅時効
6ヵ月 小切手債権 小切手法51条
約束手形債権 手形法70条
1年 飲食・宿泊代金、運送費など 民法174条
2年 生産・商品の売買代金など 民法173条
塾の授業料 民法 173条
弁護士・公証人の債権 民法172条
3年 医師・請負人の債権 民法170条
建築工事に関する代金 民法170条
5年 商行為に関する債権 商法522条
10年 個人間の債権 民法167条

改正民法における消滅時効の期間

平成29年の民法改正では、上記でご説明した

  • 商事債権
  • 短期消滅時効

の制度が廃止されました。

改正民法では消滅時効の期間は下記のようになります。

改正民法における債権の消滅時効の期間

改正民法にて、債権は下記(1)(2)のいずれか早いタイミングで時効を迎えて消滅します。

  1. 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
  2. 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
  3. (注)商法第522条を削除するものとする。(編注:商法第522条 = 商事債権のこと)

短期消滅時効は廃止

職業や内容により5年・3年・1年・6カ月と細かく分けて定められていた短期消滅時効は廃止され、

  • 債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)
  • 権利を行使することができる時(客観的起算点)

という2つのタイミングを起算点に5年または10年と、シンプルなルールとなります。

2020年4月1日以前に生じた債権は現行民法の適用に

改正民法が施工されるのは2020年4月1日からです。それ以前に生じた債権については、現行民法の消滅時効期間が適用されます。
つまり、当面のところ、短期消滅時効のルールを無視することができません。

現行民法での消滅時効期間の判断は、商法上の時効と民法上の商行為に関する債権の期間の違いなどもあり、なかなか難しいものでした。(だからこそ、改正されたとも言えます。)

そこに、民法改正以降しばらくの間は、改正民法のルールが混在することになり、継続した取引を行っているケースなど、債権の取り扱い・判断はしばらくの間、複雑なものとなることが予想されます。
債権の消滅時効を検討する際は、弁護士に相談するなど、専門家の判断を仰ぐのが得策です。

消滅時効はいつからカウントされる?

現行民法での消滅時効の起算点

支払期日の翌日が消滅時効の起算日となる

ある企業との取引で、あなたの会社が品物の製作を請け負ったとします。そして、その取引の消滅時効は5年だとします。では、この5年はいつから数えた5年になるのでしょうか。

そうした消滅時効の起算日については、契約書に記された取引の支払い期日が大きく関わります。
たとえば、取引の支払い期日を4月30日で契約していた場合、業務が終了した日や請求書を送付した日がいつであろうと、翌5月1日から時効期間のカウントが始まります。そして、5年後の4月30日をもって債権が消滅します。

改正民法での消滅時効の起算点

改正民法の場合、「債権者が権利を行使できることを知ったときから5年」というルールがあります。
契約書で支払期日を合意していれば、実質的に「権利を行使できることを知った」タイミングと考えることができるので、今回の例で言えば、現行民法の例と変わらず、5年が消滅時効期間になると言えるでしょう。

ただし、たとえば個人間の契約に基づく債務だった場合でも、改正民法での消滅時効は「権利を行使できることを知った」タイミングから5年となります。

この5年という期間は、現行民法における個人間債権の消滅時効までの期間である10年から、消滅時効期間は半減することになります。
これまでの債権・時効管理そのままだと、消滅時効を迎えてしまい、対応できなくなるリスクをはらんでいます。

時効期間の進行を止める方法

現行民法における「時効の中断・停止」

現行民法で認められた対応方法「請求」、「差押え・仮差押え」、「承認」

時効による債権の消滅にストップをかける方法があります。これを時効の中断(停止)と呼びます。つまり、一定期間、消滅時効の進行を止めることができるわけです。

時効を中断させるには、「請求」「差押え、仮差押えまたは仮処分」「承認」のいずれかの方法をとらなければなりません。このうち、「差押え、仮差押えまたは仮処分」とは読んで字のごとく、裁判によって相手の財産などを差押えたりした場合。「承認」とは相手が売掛金の一部を支払ったり、支払いの猶予の申し出があったりした場合です。

改正民法における「時効の完成猶予・更新」

改正民法では、従来の時効の中断・停止という表現が「時効の完成猶予」「時効の更新」と変更されました。

時効の完成猶予は、その文字が示す通り、本来時効となる期日が訪れても「時効の完成を一定期間、猶予すること」を指します。
また、時効の更新は「当初設定した時効期間をキャンセルし、代わって新しい時効期間を設定する」時効の内容を更新する概念です。

時効の中断についてのルールは従来から変更なし

ただし、改正民法でも「中断」という表現は残っており、また、時効の中断に関するルール改正は特に行われていません。
そのため、消滅時効を止める、という点では、従来の解釈をそのまま適用することができるものと考えられます。

裁判や内容証明郵便による催促でも中断に

「請求」には裁判上の請求と裁判外の請求があります。裁判上の請求とは、裁判所に支払督促や民事調停の申し立てなどをすること。裁判になれば、時効は中断するわけです。次に裁判外の請求ですが、これは内容証明郵便による督促によって、時効の進行を最大で6ヵ月まで中断させることができるというものです。

内容証明郵便による時効中断の注意点

あくまでも一時的措置であることに留意!

内容証明郵便による督促によって、時効の進行を6ヵ月止めることができます。しかし、もともと定められた消滅時効期間内に、裁判所に訴え出るなどの行動を起こさなければ、当初の消滅時効期間が適応されてしまいます。

つまり、内容証明郵便による時効の中断は、時効によって債権が消滅してしまうことを防ぐための一時的措置です。再度、内容証明郵便を送ればさらに延長されるというようなことはありません。あくまでも、提訴するなどの行動を起こすための準備期間としての6ヵ月であることに留意しましょう。

内容証明郵便による時効中断の注意点

個々のケースで消滅時効を判断するのは難しい

繰り返しますが、債権に関する消滅時効にはさまざまなものがあり、法律の知識がない経営者や担当者が必ずしも正確に把握できないケースもあります。また、売掛金トラブルは、対応が後手にまわればまわるほど、当事者同士で円満に解決することが難しくなります。

そこで、企業法務に強い弁護士に相談すれば、それぞれの状況に応じた解決法の提案など、有効なアドバイスが期待できます。売掛金トラブルでお困りの際は、「もう裁判しかない!」という状況になる前に、ぜひ早めに専門家に相談してみましょう。

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