商品の「顔」を保護する意匠権とは?〜経営者が知っておきたい知的財産権〜

デザイン

意匠は「商品の顔」として重要なもの

消費者の購買に直結する、「デザイン」を保護する権利

新しい発明やアイデアを保護する特許権や実用新案権に対し、より具体的な「デザイン」を保護する役割を果たすのが意匠権です。意匠法第1条には、「意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする」とあります。

意匠とは、形や模様、色、そしてそれらの組み合わせによって、視覚的により美しい外観、より使い心地のよい外観を目指すもの。つまり商品などの見た目に大きく関わるデザインが意匠であり、消費者の興味を引き、購買意欲を高める機能を持つ「商品の顔」ともいえます

目で見ることができるデザインは模倣が簡単?

とはいえ、デザインされた外観(意匠)は視覚的にひと目で認識することが可能です。このため、容易にまねをすることができ、外観的にはまったく同じデザインの商品をつくることも難しくはありません。デザイナーが考え抜き、積み上げてきた表現の技術や手法を駆使して創作したデザインを、苦労することなくまねて、再現する。そのうえ消費者からするとそのデザインがまねをしたものなのかは、判断することが難しい…。そんな環境では創作者の意欲を失わせ、産業の健全な発展をさまたげる恐れがあります。

そこで日本では、新しくデザインされた意匠を創作者の知的財産として保護するとともに意匠を利用しやすくし、それにより「意匠の創作を促進して産業の発展を目指す」意匠制度が設けられています。つまり、ほかの知的財産権と同じように、意匠制度も独占的に新規の創作についての権利を認めることで、健全な競争による産業の活性化を図っているわけです。

意匠制度が保護する範囲とは?

肉眼で見えない音や香りは保護の対象外

デザインを保護する権利といっても、たとえば美術品などすべてのデザインがその保護範囲に含まれるわけではありません。産業の発展を目的としている以上、この権利の適用を受けるには、「産業界の発達に貢献が可能な、保護を受ける価値を持つ意匠」である必要があります

また、「大量生産が可能な物品」であることも要件の一つとされています。加えて、「視覚を通じて美感を起こさせるもの」といった要件もあり、肉眼で見ることができない音や香りは対象外となります。それでは、少し複雑ですが意匠権の保護対象となる具体的な要件を、以下の表で詳しく見ていきましょう。

■意匠権の要件

1)工業上利用性

工業的(機械的、手工業的)な生産過程で生産され、量産される物品のデザインであること。たとえば次で挙げる項目は工業上利用できないので登録の対象にはなりません。

  1. 自然物等を意匠の主体に使用したもので量産できないもの(自然石をそのまま置物としたもの、打ち上げ花火のせん光など)
  2. ビルなどの不動産
  3. 絵や彫刻といった純粋美術の分野に属する著作物

※美術品は基本的に量産できないので、工業デザインの対極にあると言われます。

2)新規性

これまでにない新しい意匠であること。出願前にそれと同一または類似の意匠が存在しないこと、つまり、新しいデザインである必要があります。

3)創作非容易性

新しく創作された意匠であっても、創作性が低い、簡単にデザインすることができると判断されたものは、登録を受けることができません。

4)先願意匠の一部と同一または類似の意匠でないこと

先に出願、登録されている意匠の一部と同じ、または類似している意匠は新しい創作といえないので、意匠登録を受けることができません。ただし、先に出願された意匠の一部を構成する部分や部品の意匠でも、同一の創作者の出願であれば、先に出願された意匠の公報が発行されるまでは意匠登録を受けることが可能です。

5)公序良俗違反でないもの

元首の像、国旗や皇室の紋章などのように、すでに知られたもの、人の道徳観を不当に刺激し、羞恥、嫌悪の念をおこさせるものは、意匠登録を受けることができません。

6)誤認惹起に相当しないこと

他人の業務にかかる物品と混同を生じるものは、意匠登録を受けることができません。つまり、似たような意匠も登録不可ということになります。

7)機能確保のための形状でないこと

コネクタ端子のピンの形状など、物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなるものは意匠登録を受けることができません。意匠法は機能ではなくデザインを保護するための法律なので、このような意匠は登録から除外されています。

デザインのバリエーションも意匠登録ができる

原則は先願主義。デザインが類似した関連意匠の登録も

意匠権も先に申請・登録された権利を優先的に認める「先願主義」が原則となります。同一、または類似の意匠について複数の出願があった場合、先に意匠の登録・出願がされたもののみが登録となりますが、同じ日に複数の出願があった場合は、それぞれの出願者に対して協議命令が出されます。こうしたケースでは、協議によって決められた登録者のみが意匠登録を受けられることに。協議ができない場合や協議がまとまらない場合は、どの出願者も意匠登録を受けられなくなってしまいます。

こうしたケースに対して、同じ人物によって類似した意匠が同じ日に出願された場合は、ひとつを本意匠とし、これをもとにデザインされたバリエーションの意匠を「関連意匠」として登録することができます。また、同じ人物によって、先行した出願の広報が発行されるまでの間に後の出願がされた場合にも、最初の出願を本意匠とし、そのバリエーションの意匠を関連意匠とすることで登録が可能です。

組物の意匠制度についても知っておこう

複数の意匠を組み合わせたセットでの登録も可能?

意匠権の登録出願は、原則として「ひとつの意匠につき、ひとつの出願とすること」が定められています。ただし、複数の物品に関わる意匠であっても、一定の要件を満たしていれば「組物の意匠」として認められる場合があります。「組物」とは、たとえばオーディオ機器のように、アンプやスピーカーなど個別の物品を組み合わせて、全体としてひとつに統一されたセットのこと。こうした製品などの場合は、複数の物品をまとめてひとつの意匠として登録できるケースもあるのです。

ひと括りに意匠権と言っても、こうした「関連意匠」や「組物の意匠」など、複雑な制度についての理解も必要になります。自社のビジネスにおいて大切な製品などのデザインを守るために。意匠の登録を検討する際には、専門家のアドバイスを受けておくことをおすすめします。

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