過払金返還請求の次は、労働問題が弁護士業界のトレンドに?

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弁護士と聞くと、多くの方は「法廷での争い」をイメージされるかと思います。確かに、訴えを起こす側の原告、あるいは訴えを起こされた側の被告を代理して法廷に立つことは、弁護士にしかできません。そのため日本では一般的に、裁判などで相手方を追いつめる「怖い」弁護士像が定着。いわば、「よほどの大きなトラブルに巻き込まれない限り自分とは無縁の存在」が、一般の人々が持つ従来の弁護士のイメージでした。

ここ数年で急激に変化している弁護士のイメージ

広告解禁で弁護士が一般の人にも身近な存在に

弁護士と聞くと、多くの方は「法廷での争い」をイメージされるかと思います。確かに、訴えを起こす側の原告、あるいは訴えを起こされた側の被告を代理して法廷に立つことは、弁護士にしかできません。そのため日本では一般的に、裁判などで相手方を追いつめる「怖い」弁護士像が定着。いわば、「よほどの大きなトラブルに巻き込まれない限り自分とは無縁の存在」が、一般の人々が持つ従来の弁護士のイメージでした。

しかし、「国民がより身近に利用できる司法の実現」を目指して1999年頃から日本で推進されてきた司法制度改革によって、社会的な弁護士のイメージや役割は変化しています。過去には、弁護士や法律事務所がメディアに広告を出すことは日本弁護士連合会の規則で禁止されていましたが、2000年には弁護士広告が原則自由化に。現在では、法律事務所のCMがテレビで流れ、雑誌やインターネットでも弁護士や法律事務所の広告が頻繁に掲載されるようになりました。

誰もが気軽に司法にアクセスできる時代だからこそ…

そうしたテレビCMなどの効果もあり、十数年前に比べると、多くの人にとって弁護士に相談を持ち込む心理的なハードルは相当に低くなっています。また、司法制度改革以来の急激な弁護士人口の増加などの影響を受け、現在は若手弁護士を中心に、「弁護士業は広く一般の人々に法的サービスを提供するサービス業である」という意識も広がっています。

サービスを提供する側と利用する側の双方のハードルが下がった結果、日本でもここ数年で弁護士の存在が身近なものになり、誰もが気軽に司法にアクセスできる時代になりつつあります。とはいえ、「誰もが気軽に法的サービスを利用できる社会」は、企業の経営者からすると、ひとつでもルール違反をしてしまえば、従業員や顧客に訴えを起こされてしまう可能性がある厳しい社会とも言えます。

ブラック企業が狙い撃ちに? 多くの弁護士が「労働問題」に注目!

ある日突然、従業員から訴えを起こされる可能性も

弁護士に相談をするハードルが下がり、誰もが司法にアクセスしやすい時代に――。そんな時代だからこそ、現代の企業経営者にはリーガルマインドが必要になっています。特に最近では、世間を賑わしていた過払金返還請求のブームが落ち着きを見せ、弁護士業界のトレンドが労働問題に移るという見方もあります。

実際に、インターネット広告などを見ても、「未払い賃金や残業代請求」、「不当解雇」といった労働問題を専門に請け負う弁護士や法律事務所が増えています。このように、多くの弁護士が労働問題を「伸びしろのある業務分野」として注目していることは、企業の経営者なら知っておきたいところです。

【労働問題】紛争を起こすまでのハードルを下げた労働審判制度

労働紛争の増加によって導入された新たな制度

では、なぜ最近になって労働問題が注目を集めているのでしょうか。その理由はいくつか挙げられますが、法的な見方をすると大きく2つのトピックスが関わっています。

そのうちのひとつが、2006年から導入された「労働審判制度」です。終身雇用制の崩壊や労働者側の権利意識の高まりなどもあり、90年代後半から労働問題は増加傾向にありました。労働審判制度はそうした背景を受けて導入されたもので、個々の従業員と会社との労働問題トラブルについて、スピーディに話し合いによる和解を図れる制度です。

労働審判制度が導入されるまでは、残業代の未払いや不当解雇などで従業員が会社とトラブルになった場合、労働基準監督署への相談や労働局によるあっせん、そして裁判所での訴訟が主な解決手段でした。しかし、あっせんには強い法的拘束力がなく、訴訟には一審判決が出るまでに1年以上の時間がかかるなど、それぞれにデメリットがありました。

原則、3回以内の期日で審理が終了

対して、労働審判制度の場合、原則として3回以内の期日で審理を終えることになっており、申立てから終結までにかかる平均日数は約70日と迅速。審判自体も、審判官(裁判官)に加え、裁判所が選任した労働問題ついての経験や知識が豊富な2名の審判員(一般人)が中立・公正な立場で関わり、話し合いによる和解が不調に終わった場合も、妥当な審判(解決案)を出してくれます。

従来の紛争解決方法に比べ、迅速かつ適正なうえ誰もが気軽に利用できる労働審判は、その導入から飛躍的に申立件数を増やし、近年では年間で3000件以上の申立てが行われています。

労働審判申し立て件数

※参考/「弁護士白書 2015年版」日本弁護士連合会

また、労働審判が利用されたケースの8割以上で弁護士が代理人として選任されており、全ての申立のうち7割以上で調停が成立しています。ここ数年、申立件数の増減は横ばいではあるもの、会社を訴えたい労働者側からすると、スピーディに確実な解決が図れる労働審判は大きなメリットがある制度と言えるでしょう。

【労働問題】多くの企業が対策を迫られた「名ばかり管理職」問題

肩書上は管理職。残業代はなしでもOK?

そして、労働問題が注目を集めるきっかけとなったもうひとつのトピックが、2008年に東京地裁で判決が下され、大きな話題となった「名ばかり管理職」の問題です。この裁判は、原告である有名ファーストフード店の店長が、実質的には管理職としての権限を与えられていなかったにも関わらず、残業代を支給されなかったことを不当として訴えを起こしたもの。結果、裁判所は原告の言い分を認め、被告側企業は未払い残業代の支払いを命じられました

当時の労働者側には、「会社に管理職という肩書きを与えられた以上、残業代を得られないのは仕方がない」という認識がありました。ところが、この判決によってそうした認識が覆され、同様の勤務形態にあった多くの「名ばかり管理職」の人々が、雇用主を相手に未払い残業代の支払いを求める訴えを起こすこととなったのです。

【労働問題】従業員との不要なトラブルを避けるために

就業規則のチェックや、法改正への対応が必要です

過払金返還請求のブームは、グレーゾーン金利やみなし弁済といった従来は業界の慣習として見過ごされていた違法行為が、ひとつの判決によって覆ったことがきっかけで起こったもの。弁護士広告が解禁となり、誰もが気軽にアクセスできるようになった現代では、そうしたムーブメントがいつでも起こる可能性があります。

過払金返還請求ほど大きなトレンドになるかどうかは別として、ここ数年で労働問題が多くの弁護士から注目を集めているのは事実です。中小企業の経営者の方は、従業員との不要なトラブルを避けるためにも、ぜひ早めに専門家に依頼して自社の就業規則を見直すなど、しっかりと労働トラブルの予防に努めておきましょう。

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